HPVワクチンは、女性のためのワクチンというイメージを持たれている方もいるでしょう。
そのため、
- HPVワクチンは男性に関係がないのでは?
- 子宮頸がんだけの予防をするワクチンではないの?
そう思われている男性も少なくないのではないでしょうか。
しかしHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染すると、男性もがんにかかるリスクがあります。
HPVワクチンは女性だけでなく男性も接種することで、大切な人を守り、ご自身の健康も守ることができます。
この記事では、なぜ男性もHPVワクチンを接種すべきなのか、ワクチンの効果や副作用などについて解説します。
HPVワクチンについて気になる方は参考にしてください。
目次
HPVワクチンとは?
HPVワクチンとは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐことにより、HPVが引き起こす性感染症や子宮頚がんなどのさまざまな病気を予防することができるものです。
日本では2009年にワクチンとして承認され、接種が始まりました。
9歳以上からの接種が可能ですが、現在の日本では、小学校6年生から高校1年生の女子のみ公費助成によって無料接種となっています。
そのため「HPVワクチンは、女性が受けるもの」というイメージを持っている方も少なくありません。
しかし、男性の陰茎がんや性感染症の予防にも有効であることがわかっており、男性にも接種が推奨されているワクチンです。
日本と海外 男性の接種状況
HPVワクチンは、2006年に欧米で生まれました。
現在では世界保健機構(WHO)もHPVワクチンの接種を推奨しており、120カ国以上において公費助成によるHPVワクチンの定期接種が行われています。
男性への接種も広がりをみせており、アメリカ、オーストラリアでは、男性への定期接種も開始されています。
一方日本では、HPVワクチンの知名度が低いことに加え、2013年から女性への定期接種が開始されましたが、接種後の注射部位以外の痛みの持続などの報告がありました。
その影響で、接種自体は禁止になっていませんが、積極的な接種の推奨が一時的に控えられていました。
よって、日本のHPVワクチン接種率は、海外に比べて非常に低い水準となっています。
(2022年4月より、女性のHPVワクチンの定期接種が再開されています)
ワクチンの定期接種が行われている国では、ワクチンの接種世代と、ワクチンを接種しなかった同世代の集団において、HPVの感染率が低下したとのデータがあります。
このことから、ワクチン接種率を高めることにより、集団免疫を獲得できるともいわれています。
HPVワクチンを接種することで、多くの方のHPV感染を防ぐことが期待できるのです。
HPVとは
HPV(ヒトパピローマウイルス)は皮膚や粘膜に感染するウイルスで、主な感染経路は性行為です。
HPVには200種類以上の遺伝子型が存在し、その型によって発症する病気も異なりますが尖圭コンジローマや子宮頸がん、陰茎がん、皮膚がんの原因となります。
セックスの経験がある女性の50%以上が一生に一度はHPVに感染するといわれています。
HPVが皮膚や粘膜に感染し続けると細胞に異形成が起こり、それががんの原因になります。
そのため、HPVワクチンは感染してから接種するのではなく、感染そのものを予防することが重要となります。
HPVは高リスク型と低リスク型に分類されます。
高リスク型HPV
高リスク型(ハイリスク型)は、HPVの型のなかでもがん化するリスクがあるもので、注意が必要です。高リスク型は、男性の陰茎がんや肛門がん、中咽頭がん(喉のがん)、女性ですと、子宮頸がんの原因となります。
そのまま放置してしまうと病状が進行し、生命にかかわる可能性があるため、早期発見・早期治療が重要となります。
16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型が高リスク型HPVです。
低リスク型HPV
低リスク型(ローリスク型)のHPVは6型と11型で、HPV感染者のうち90%は低リスク型といわれています。
低リスク型のHPVに感染すると、尖圭コンジローマを発症することがあります。
尖圭コンジローマは性感染症の一つで、感染した部位(主に陰部や肛門など)にイボ状の腫瘤を形成する病気です。
尖圭コンジローマ自体は良性のイボですが、同時に高リスク型HPVに感染している可能性もあり、もしパートナーがいる場合は、パートナーにもHPVを感染させてしまうリスクがあります。
そのため「良性だから」と放置せず、医療機関で検査・治療を受けることが大切です。
ただ高リスク型も低リスク型も、感染したからといって必ず病気を発症するわけではありません。
HPVは感染してもほとんどが自然に消えてしまうことが多い、ごくありふれたウイルスです。
しかし、一度感染してしまうと、そのままウイルスが体内からいなくならず(持続感染)、そのまま性感染症やがんを発症してしまう場合があります。
そのため日頃からHPVに感染しないように予防をしたり、ワクチンを接種したりすることが大切なのです。
男性もHPVワクチンを接種すべき理由
HPVワクチンは女性だけが接種すれば良いものではありません。
男性も一緒に接種することでより感染を防ぐことができ、がんや性感染症の発症を抑えることができます。
この項では、男性もHPVワクチンを接種すべき理由を解説します。
パートナーを守ることにつながる
子宮頸がんのほとんどはHPVが原因で発症します。
子宮頸がんは、子宮の頸部(子宮の出口に近い部分)にできるがんで、若い世代の女性に多く発症するのが特徴です。
がんが進行すると命に関わるのはもちろんですが、子宮を失い妊娠ができなくなってしまうため、若い女性にとっては深刻な病気の一つです。
日本では年間に約1万人が子宮頸がんにかかり、約2,900人が亡くなっています。
男性がHPVに感染しているのに気づかずに相手の女性に感染させてしまうことで、子宮頸がんにかかるリスクを高めてしまうことになります。
子宮頸がんはHPVの感染を防ぐことで予防できる病気です。
大切なパートナーを守るためにもワクチンを接種することが大切になります。
男性の疾患も予防可能
HPVワクチンは子宮頸がんを予防するだけではありません。
男性の陰茎がんや肛門がん、中咽頭がん(喉のがん)の予防にも効果があります。
陰茎がんは、陰茎部に腫瘤や潰瘍を形成するのが特徴で、痛みもなく自覚症状が乏しいことから、発見が遅れてしまうこともあるがんの一つです。
中咽頭がんは喉のがんで、男性だけでなく女性もかかる病気です。
オーラルセックスなどによってHPVが中咽頭の粘膜に感染することで発症します。
これらはHPVに感染しなければ回避できる病気です。
男性もHPVワクチンを接種することで、ご自身の健康も守ることができるのです。
HPVワクチンの種類
国内で承認されているHPVワクチンには、2価、4価、9価の3種類があります。
どのHPVの型を予防できるかによって、種類が異なります。
・2価:16、18型
・4価:6、11、16、18型
・9価:6、11、16、18、31、33、45、52、58型
子宮頸がんの原因となるのは高リスク型の16型、18型。
しかしそれ以外にも31型、33型、45型、52型、58型など、悪性化しやすい型が存在します。
そのため2価、4価のワクチンですと、すべての高リスク型のHPVに対しての予防効果が期待できません。
よって幅広い型のウイルスの感染を防ぐためには、9価の接種が望ましいといえます。
海外では9価がスタンダードになっています。
9価HPVワクチンは、日本では2020年7月21日に厚生労働省より製造販売が承認されています。
現在、公費で受けられる女性の定期接種は2価、4価の2種類。
男性の場合は公費助成がないため、いずれのワクチンも全額自己負担となります。
HPVワクチンの危険性や副反応は?
HPVワクチンは2013年に女性への定期接種が始まりましたが、注射部位以外の広い範囲で続く痛みが報告されました。
その影響で、積極的な接種の推奨は控えられていました。
しかし2021年、ワクチンの安全性について他のワクチンと変わらないと認められ、2022年4月から女性への定期接種の推奨が再開されています。
ワクチンの副反応としては、注射部位の痛み、腫れ、赤みのほか、ごくまれに呼吸困難やじんましんなどを主症状とするアナフィラキシーショックが起こる可能性があります。
しかし、これらはどのワクチンにも起こりうる副反応です。
過剰に不安にならず、疑問点があれば接種前に医師に相談しましょう。
接種後は医療機関の指示にしたがって様子観察を行いましょう。
また以下のいずれかに当てはまる方は、ワクチン接種が可能かどうか慎重に判断する必要があります。
- 血小板が減少している、血が止まりにくいなどの症状のある方
- 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害などの基礎疾患のある方
- 過去に受けた予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた方
- 予防接種でアレルギー症状が出たことがある方
- けいれんを起こしたことがある方
- ワクチンを接種した後や、けがの後等に原因不明の痛みが続いたことがある方
- 女性の場合、妊娠又は妊娠している可能性のある方
基礎疾患のある方や、予防接種で具合の悪くなったことがある方などは、健康状態や体質などを担当の医師にしっかり伝えましょう。
予防接種についての十分な説明を受け、よく理解した上で接種を受けてください。
HPVワクチンの接種方法と接種スケジュール
HPVワクチンは筋肉注射で行います。
肩に打ちますので、注射当日は肩を出しやすい服装でお越しください。
HPVワクチンの接種スケジュールはワクチンの種類によって異なります。
通常の接種スケジュールは下記になります。
- 初回
- 2回目・・・初回の接種から2ヶ月後
- 3回目・・・2回目の接種から4ヶ月後(初回から半年後)
他のワクチン(不活化ワクチン、生ワクチンとも)を受けた場合でも接種間隔に制限はありません。
ただし、新型コロナワクチンに関しては、お互い2週間の間隔を空けることが必要となりますので、ご注意ください。
神田西口クリニックのHPVワクチン
神田西口クリニックは男性のためのクリニック。
受付スタッフ、看護師、医師すべて男性です。
HPVワクチンについては、さまざまな情報が溢れているからこそ不安も大きいと思います。
なのでまずは些細なお悩みも、ぜひお気軽にご相談ください。
一人ひとりの症状に寄り添い、オーダーメイドの処置処方を行います。
HPVワクチンの料金
※在庫確保困難のため、新患受入は現在しておりません。
HPVワクチンについてのよくある質問
HPVワクチンの効果はどのくらい持続しますか?
HPVワクチンは、現段階でがんそのものを予防する効果は証明されていません。
しかしHPVの感染や、がんになる過程での細胞の異形成を予防する効果は確認されています。そしてその効果も一定期間持続するといわれています。
ワクチンの効果がどのくらい持続するかはワクチンの種類によって異なりますが、これまでに確認されている効果の持続期間としては2価ワクチンの初回接種後で最長9.4年、4価ワクチンの初回接種後、少なくとも6年間の持続が確認されています。
9価ワクチンはまだ研究中ですが、少なくとも8年以上の持続が確認されております。
HPVワクチンは3回接種することが推奨されています。
接種スケジュールにそって3回接種することで、よりワクチンの効果を持続することができるでしょう。
男性のHPVワクチン接種は公費助成はありますか?
残念ながら現段階では、男性へのHPVワクチンの公費助成は行われておらず全額自己負担となっています。
費用はワクチンの種類によって異なります。
2価、4価ワクチンの方が費用が安く済みますが、悪性化しやすい高リスクHPVのうち16型と18型だけを予防することになり、それ以外は予防できないことになります。
実際に子宮頚癌のデータですが、4価のワクチンでの子宮頚癌予防率は65%にとどまります。
一方、海外では9価ワクチンがスタンダードになっており、これであれば子宮頚癌予防率は90%以上になるといわれております。
どの種類のワクチンを接種するかは個々の判断になってしまいますが、医師とよく相談のうえ決めましょう。
ワクチン接種後に注意することはありますか?
HPVワクチンの接種後には注射部位の痛みや腫れ、赤みが現れることがあります。
症状が軽い場合はそのまま様子をみてもかまいません。しかし
- 強い痛みが続く
- 腫れがひどい
- しびれがある
- 高熱、けいれん
など強い症状がある場合は早期に医療機関を受診してください。
また、注射直後はごくまれにアレルギー反応が現れたり、痛みや恐怖、緊張などによって気分を悪くされたりする方もいますので、接種後20分は院内で待機するなどして体調に変化はないか様子観察をしましょう。
ワクチン接種後に気になる症状が現れた場合は、次回の接種を中止することも可能です。その際は医師にご相談ください。
HPVワクチンは年齢問わず接種できますか?
HPVワクチンは9歳以上なら接種することが可能です。
(厚生労働省からは4価ワクチンの9歳以上の適応が承認されています)
HPVは性行為によって感染するため、性交渉を行う前の段階で接種することが理想です。
また、性交渉があってもワクチン接種をすることは可能です。
すでに何らかのHPV型に感染している場合でも、それ以外の型を予防することができるからです。
しかし、できるだけ早く接種することで、よりワクチンの効果を高めることができます。
ちなみにワクチンの"適応"とは、ワクチン接種により何らかの問題が生じた場合は、公的な救済制度の対象になることをいいます。適応外でもワクチンの接種は可能です。
男性も積極的にHPVワクチンの接種を
HPVワクチンを接種することで、パートナーである女性の子宮頸がんの予防につながるだけでなく、男性自身も尖圭コンジローマや陰茎がん、肛門がん、中咽頭がんの予防になります。
これまで女性だけが受けるイメージであったHPVワクチンですが、海外では男性の定期接種が始まるなど、徐々にメジャーになっている予防接種です。
残念ながら、現在の日本では男性の公費助成制度はありませんが、ご自身の健康や、大切なパートナーを守るためにもHPVワクチンを接種することは重要です。
HPVワクチンについて気になることがありましたら、医師にご相談ください。
参考:
監修者

神田西口クリニック院長 鈴木 鑑
2003年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。
2014年都内某クリニックにて性感染症診療に従事。
10万人以上の性感染症患者さんの悩みに寄り添い解決してきた実績がある。
2023年神田西口クリニックの院長に就任。
所属学会・資格
- 日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医
- テストステロン治療認定医
- 日本性感染症学会
- 日本感染症学会
- 日本化学療法学会
- 日本メンズヘルス医学会