男性にも更年期障害があることをご存知でしょうか。
更年期障害といえば女性のものというイメージが強いかもしれませんが、実は男性にも更年期障害は起こります。
しかも決して他人事ではありません。
40歳以上の日本人男性の6人に1人が男性更年期障害だと言われるほど、男性更年期障害は身近な疾患なのです。
最近寝つきが悪い、疲れが取れない、やる気が出ない、イライラすることが増えたなどの症状に当てはまる人は、もしかしたら男性更年期障害かもしれません。
今回は男性更年期障害の症状や原因、治療法や予防方法について医師が解説します。
目次
男性更年期障害とは
男性更年期障害は別名、LOH(Late-Onset Hypogonadism/加齢男性性腺機能低下)症候群と呼ばれます。
女性の更年期障害が女性ホルモンの低下によって起こるのと同じく、男性更年期障害も男性ホルモンであるテストステロンの急激な低下が原因で起こるものです。
男性ホルモンは男性の活力や精力に深く関わっており、低下すると活力の低下・性欲の低下に繋がるほか、イライラしたり睡眠の質が下がるなどの心身の不調に繋がります。
男性更年期障害を起こしやすいのは、几帳面で真面目な方やストレスを貯めやすい方だとされています。
男性更年期障害を診断するためには血液検査が必要です。
血液検査で調べるのは”総テストステロン”と”遊離型テストステロン”という血液中の男性ホルモンの量。総テストステロン値が250ng/dl未満、または総テストステロン値が250ng/dl以上の場合は遊離型テストステロン値が7.5pg/ml未満で前立腺癌でない場合、治療適応となります。
総テストステロン値も遊離型テストステロン値も日内変動があり、午前10〜11時にピークを迎えます。
そのため血液検査は午前10〜11時に行いますので、受診の際にはご注意ください。
また、AMSスコアと呼ばれる質問票も男性更年期障害の診断に広く利用されています。
このAMSスコアはご自身でも簡単にチェックできるものです。
気になる方は以下でチェックしてみてください。
【AMSスコア】
チェック項目 | な し | 軽 い | 中 等 度 | 重 い | 非 常 に 重 い |
---|---|---|---|---|---|
1.総合的に調子が思わしくない | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
2.関節や筋肉の痛み | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
3.ひどい発汗 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
4.睡眠の悩み | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
5.よく眠くなる、しばしば疲れを感じる | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
6.イライラする | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
7.神経質になった | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
8.不安感 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
9.体の疲労や行動力の減退 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
10.筋力の低下 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
11.憂うつな気分 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
12.「絶頂期は過ぎた」と感じる | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
13.力尽きた、どん底にいると感じる | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
14.ひげの伸びが遅くなった | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
15.性的能力の衰え | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
16.早朝勃起(朝立ち)の回数の減少 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
17.性欲の低下 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 |
合計 | 点 |
結果
26点以下:正常
27〜36点:軽度
37〜49点:中等度
50点以上:重度
※軽度以上の方は医療機関を受診して頂くことをおすすめします。
男性更年期障害の症状
テストステロンは男性の心身に深く関係しており
男性更年期障害が起こると身体面と精神面両方に広く色々な症状が出ます。
それぞれどんな症状が出るのか、一例をご紹介しましょう。
身体の症状
- 筋力や筋肉量の低下、肥満
- 肩こりや関節痛
- 疲れが取れない
- 眠りが浅い、寝つきが悪い
- ほてり感や発汗の増加
- 朝立ちが減る、勃起不全
精神の症状
- イライラする
- 神経質になる
- やる気が出ない
- 不安感がある
- 記憶力や集中力の低下
- 性欲の減少
身体面でも精神面でも女性の更年期障害と通ずる症状が多くあります。
一方で男性更年期障害特有の症状は、性欲の減少や勃起不全など男性器に及ぼす影響が大きいことです。
また、男性更年期障害はまだまだ一般的に浸透しておらず、特に精神面での症状が似ていることから、”うつ病”に間違えられることも多いようです。
精神科や心療内科に通院してもなかなか症状が改善しなかった方が、男性更年期障害の治療を受けて劇的に症状が改善し、元気を取り戻した事例もあります。
うつ病の治療を受けても一向に症状が改善しない方は、一度男性更年期障害の検査を受けてみるのがおすすめです。
テストステロンはその人の性格や社交性にも大きな影響を与えています。
中年になってから人が変わったように暗い性格になった、怒りっぽくなった、人付き合いをしなくなったなど、身近な人に指摘されて検査を受けてみたら男性更年期障害だったという場合もあります。
もし身近な人にそうした指摘を受けているなら、聞き流さずに医療機関への受診を検討した方が良いでしょう。
男性更年期障害の原因
前述の通り、男性更年期障害の原因は男性ホルモンであるテストステロンが急激に低下することです。テストステロンの分泌のピークは20歳代。
以降、加齢に伴って自然に少しずつ低下します。
そして加齢に加えて何らかの原因でテストステロンが急激に低下すると、男性更年期障害が起こります。
その原因の多くはストレスです。
更年期と呼ばれる中年以降の男性は、社会的地位が高くなり会社での責任も重くなるとともに、
家庭でも子どもの受験・進学などについての懸念事項や、
親世代との死別や介護の問題に直面する年代で、大きなストレスを受けやすいとされています。
また、テストステロンは筋肉を太くする信号を出す役割も担っているため、低下すると筋肉がつきにくくなり、肥満を起こしやすい傾向も。
さらに、テストステロンは糖代謝にも関係していることがわかっています。
そのため、テストステロンが低下すると肥満や糖代謝異常を引き起こし、高血圧や2型糖尿病、心筋梗塞や脳卒中などの命に関わる重大な病気に繋がる可能性が高まるのです。
男性の心身の健康にテストステロンは欠かせない存在と言えます。
男性更年期障害の治療法
男性更年期障害の治療の柱は、生活療法とテストステロンの補充療法のふたつです。
生活療法
生活療法とは、生活習慣を改善してストレスを緩和しテストステロンの分泌を増やすという治療方法。
生活習慣の乱れはストレスの増加に繋がります。
栄養バランスの良い食事を食べ、適度に運動をして、十分な睡眠をとるといういわゆる”健康的な生活”がストレスを減らし、さらにはテストステロンの分泌改善に役立つのです。
また、以下の食品はテストステロンの分泌向上に良いとされており、男性更年期障害の方は特に積極的に摂るのがおすすめです。
- タンパク質(肉・魚・卵・大豆など)
- 山芋
- タマネギ
- ニンニク
- にら
- アボカド
- にんじん
そして、適度な運動に加えて定期的に筋トレをすることもおすすめです。
筋トレをするとテストステロンの分泌が向上するとされています。
「筋肉を鍛えると自分に自信がつき前向きになれる」と言う人が多いのは、テストステロンの分泌が増え活力が出るためでもあるのです。
テストステロン補充療法
テストステロン補充療法は、その名の通り低下しているテストステロンを補充する治療方法です。
補充方法は注射と塗り薬のふたつ。
当院では、基本的には外用薬を使用を推奨しています。
【塗り薬】
塗り薬の場合は陰嚢に塗ります。
体の皮ふの中でも陰嚢は特に薬の吸収率が高いためです。
1日1〜2回塗布します。
【注射】
注射は筋肉注射で行う必要があります。
筋肉注射では神経を傷つけないよう、お尻にある大きな筋肉に注射を打つのが一般的。
筋肉注射というと痛そうなイメージですが、筋肉は皮ふに比べて痛みを感じる神経が少ないため心配には及びません。
薬には副作用がつきものです。
もちろんテストステロン補充療法にも副作用を生じる可能性があります。
テストステロン補充療法の副作用は以下の通りです。
- 脂質代謝異常
- 多血症
- 肝機能障害
- 睡眠時無呼吸症候群
- にきびの増加
- 体毛増加
- ほてり
- むくみ
- 女性化乳房(胸が膨らんでくる)
- 精巣萎縮、男性不妊症
- 気分、行動の変化 など
副作用が起きていないかをチェックするため、約3か月に1回の頻度で受診していただき問診と採血を行います。
また、治療には症状に応じてテストステロンを増強する効果がある補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という漢方薬やプラセンタ注射を行う場合もあります。
男性更年期障害の治療と診察料金
- 初回診察代及び検査代 11,000円
- 再診時検査代(治療効果や副作用チェック) 6,000円
治療薬
- Testosterone5%配合クリーム (3ヶ月分) 26,900円
- 筋肉注射(1回) 10,000円~50,000円
- 漢方薬(1ヶ月分) 2,800円
- プラセンタ注射(1~3本) 1,000~3,000円
男性更年期障害の予防方法
男性更年期障害の予防には、テストステロンを低下させないことが重要です。
そのためにはまず生活習慣を整え、ストレスをためないようにするのが一番。
栄養バランスの良い食事を食べ、適度な運動をして、十分な睡眠をとりましょう。
過度な飲酒はテストステロンの低下に繋がるため、お酒は適度に楽しむということも大事です。
喫煙は睡眠の質の低下やストレスに繋がりやすいので、禁煙は必須です。
他には前述の通り、タンパク質・ニンニク・玉ねぎなどのテストステロンの分泌を促してくれる食品を積極的に摂り、筋トレをしてテストステロンが分泌されやすい体作りをするのもおすすめです。
そして、人と競争するようなスポーツやゲームをするのもおすすめ。
男性ホルモンは緊張したり興奮したりすると分泌されやすいという条件があり、競争にはそうした条件が揃いやすいのです。
男性更年期障害についてのよくある質問
女性の更年期障害とはどう違いますか?
【発症期間と自然治癒するかどうかの違い】
・女性更年期障害:閉経の前後10年間の間に生じ、自然に症状が収まる
・男性更年期障害::40歳代以降いつでも生じる可能性があり、自然治癒しない
男性更年期障害は50歳代の方が多いですが、中には60代や70代になってから症状を自覚される方もいます。
逆に30代後半の方も散見されます。
【症状の現れ方の違い】
・女性更年期障害:閉経の影響で急激に症状が現れる
・男性更年期障害:徐々に緩やかに症状が始まる
女性は閉経がきっかけで更年期障害を生じるのに比べて、
男性更年期障害の症状はきっかけがないため気付きにくく「歳を取ったせい」にされ見逃されがちなやすい傾向があります。
【性機能への影響の有無】
・男性更年期障害は勃起不全や性欲の減少などの性機能への影響が大きい
男性生殖器特有の症状が出るのが男性更年期障害の特徴です。
男性更年期障害は治りますか?
正しい治療を受ければ症状の改善はもちろん可能です。
ただし男性更年期障害と一口に言っても軽度〜重度に重症度が別れてわかれており、また薬の効果には個人差も生じあります。
そのため数週間の治療で症状が劇的に改善する方もいれば、数年〜数十年にわたって治療を続ける方もいます。
当院では個人個人に合わせたオーダーメイドの治療が可能です。
まずは問診・検査・丁寧な診察を通して男性更年期障害の重症度を判断し、症状や重症度を加味して個人に合わせた治療を行っています。
少しでも不安な方はまずはご相談ください。
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男性更年期障害は再発しますか?
加齢や日々のストレスによりテストステロンは減少していくものです。
そのため、テストステロン補充療法だけでは治療をやめてしまうと、再びテストステロンが低下し症状が再発するということもあり得ます。
治療効果を高め調子の良い状態を維持するためには、やはり生活習慣の改善とストレスの軽減は欠かせません。
栄養バランスが整った食事、適度な運動、質の良い十分な睡眠、禁煙、過度な飲酒を控え、ストレスをためないという健康的な生活に切り替えていきましょう。
男性更年期障害になりやすい人は?
以下のような生活習慣を持つ人は、特に男性更年期障害になりやすいとされています。
- 睡眠不足、睡眠の質が悪い
- 栄養バランスが偏った食事をとり、特にタンパク質が足りていない
- 運動習慣がない
- 過度な飲酒や喫煙をしている
- ストレスの多い生活を送っている
中でも特にストレスはテストステロンを低下させる最も大きな因子。
ストレスが多い自覚がある方は、可能なら環境を変えたりストレスの要因と距離を置くなどの対策をすると良いでしょう。
男性更年期障害にバナナが効果的って本当?
男性更年期障害にバナナが効果的という話は本当です。
実はバナナには、幸福感を感じさせてくれる”セロトニン”というホルモンの材料になる栄養素が含まれており、精神の安定に効果があるとされています。
セロトニンは日中分泌されるホルモンのため、特に朝食に食べるのがおすすめ。
男性更年期障害により憂うつ感が強い方は朝食にバナナを食べましょう。
市販薬やネットで購入した薬は効きますか?
男性更年期障害の治療薬は一般の薬局などでは正規販売されていません。
ただ、治療に使用される補中益気湯というテストステロンの分泌を促してくれる漢方薬は薬局などでの購入が可能です。
しかし男性更年期障害は男性ホルモンの低下により引き起こされる病気のため、やはりテストステロン自体を補充する方が治療効果が高く効果を実感しやすいでしょう。
早期の症状改善を希望されるなら、やはり医療機関に受診し治療を受けるのがおすすめです。
男性更年期障害を放置するとどうなりますか?
男性更年期障害は放置すればするほどさらに男性ホルモンが低下していくため、症状の改善が望めないだけでなく悪化していく可能性が高いです。
重度になると集中力や記憶力が低下し、仕事や生活などに影響を与えてしまう場合も。
また男性更年期障害によって体脂肪が増加し肥満になると、2型糖尿病や心筋梗塞、脳卒中などの命に関わる重大な病気を引き起こす可能性もあります。
男性更年期障害の症状を自覚しているなら、早めに医療機関で治療を受けることが大切です。
男性更年期障害の相談をしたい場合、何科の医療機関を受診したら良いですか?
男性更年期障害の治療は基本的には内科の領域になります。
ただし、勃起不全などの男性器についての症状に悩んでいる場合には泌尿器科を受診した方が良いでしょう。
最近増加している当院のようなメンズクリニックなら、精神面・身体面・そして男性器のことなど、男性更年期障害の全ての症状に対して治療が可能です。
男性ならではの身体の悩みに特化しているため、男性更年期障害についての理解がある医師が多く、検査や治療をスムーズに行えます。
男性更年期障害だと感じたら早めの受診がおすすめ
今回は男性更年期障害(LOH症候群)の症状や原因、治療法や予防方法などについてご紹介しました。
男性更年期障害は中年男性の6人に1人が生じるポピュラーな疾患なのに、うつ病や歳のせいにされてしまう症状が多く見逃されてしまいがち。
しかし中年期以降の男性が社会的にも人間的にも生き生きと精力的に生きていくために、ぜひ早期に治療を始めてほしい疾患のひとつです。
もしあなたが「自分は男性更年期障害かも」と少しでも思うなら、早めに専門医に相談しましょう。
そして正しい治療を受け、よりあなたらしい人生を歩んでほしいと同じ男性として願っております。
神田西口クリニックについて
神田西口クリニックは男性のためのクリニック。
受付スタッフから、医師まですべて男性です。
男性不妊やED、男性更年期などの男性特有疾患。
疾患の認知度の低さから治療せずに悩みを抱えたまま生活されている方もいます。
今あなたが抱える身体の不調も、性格や心の問題ではなく、改善が可能な疾患かもしれません。
頑張りすぎてしまう前に、ぜひ一度ご来院ください。
より輝く未来のために。
不安を軽減するための道をお示しいたします。
監修者

神田西口クリニック院長 鈴木 鑑
2003年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。
2014年都内某クリニックにて性感染症診療に従事。
10万人以上の性感染症患者さんの悩みに寄り添い解決してきた実績がある。
2023年神田西口クリニックの院長に就任。
所属学会・資格
- 日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医
- テストステロン治療認定医
- 日本性感染症学会
- 日本感染症学会
- 日本化学療法学会
- 日本メンズヘルス医学会