2025年の国内での新規エイズ患者・HIV感染報告数は890人。
年間の国内感染者が100万人いるようなクラミジアなどと比べ、感染者は決して多くはありません。
しかしエイズ・HIV感染症は、1981年にはじめて発見され40年以上経った今でも完治させる術は見つかっていません。
かかってしまったら一生付き合っていかなければならない、決して楽観視できない重大な病気です。
そんな恐ろしいエイズ・HIV感染症に、予防薬があることはご存知でしょうか。
HIV予防薬を飲めば、なんと90~95%の確率で感染を防ぐことができます。
「HIVに感染したかもしれない」
「HIVに感染しないために予防したい」
そんなお悩みを抱える方に向けて、今回は「HIV予防薬」について医師が解説します。
HIV予防薬とは?
HIV予防薬とは、文字通りHIV(Human Immunodeficiency Virus/ヒト免疫不全ウイルス)の感染を予防する薬のこと。それらを使用することで、HIVの感染を90~95%の高い確率で抑えることが可能です。
HIV予防薬を使用した予防方法には種類があり、予防目的で普段から内服するものと、HIV感染の恐れがある性行為があった後に緊急で使用するものがあります。
海外では広く普及しHIV予防に役立っている予防薬。
性交渉によるHIV感染を予防するのはもちろん、医療従事者の針刺し事故(採血時などに誤って使用済みの針を自分の手などに刺してしまう事故)などでも感染予防として使われます。
HIV(エイズ)に感染するとどうなる?
HIVは人の免疫細胞に感染するウイルスです。
免疫細胞は体を外敵(細菌やウイルスなど)から守る役割を担っています。
HIVに感染すると2〜15年もの長い時間をかけて免疫機能が破壊され、徐々に免疫が低下していきます。
免疫が低下していくといずれ免疫不全になり、普段はかからないような弱い菌に感染(日和見感染)してしまったり、がんなどの命に関わるような病気になったりするのです。
このようにHIV感染によって免疫不全となり、さまざまな病気が引き起こされた状態を、エイズ(Acquired Immunodeficiency Syndrome:AIDS/後天性免疫不全症候群)と呼びます。
HIVは性行為はもちろん、血液や母乳を介しても感染します。
かつてHIV感染症やエイズは有効な治療法がなく、かかってしまったら撃つ手がない「死の病」として恐れられていました。
しかし現在は医学の進歩により、HIVを完全に体から消し去ることはできなくても、治療によってエイズを発症せず、HIVに感染していない人と同程度の寿命が期待できるまでになったのです。
ただしエイズを発症させないためには、毎日の内服を一生続けていく必要があります。
死の病として恐れる心配は少なくなりましたが、一生付き合っていかなければならない重大な病気であることは変わりません。
HIV予防薬が必要な例
HIV予防薬が必要とされる例は一般的に以下の通りです。
- パートナーや性行為の相手がHIV感染者
- コンドームなしで肛門性交(アナルセックス)をする
- 性風俗で働いている
- セックス中にコンドームが外れた
- 性被害(レイプ)にあった
- HIV感染者の血液が誤って傷口や粘膜に触れた
- 医療従事者で針刺し事故にあった
- 他の性感染症にかかっている
HIVは精液や膣分泌液だけでなく血液などを介しても感染するため、単に性行為を行う人・行った人だけがHIV予防薬を必要とするわけではありません。
特に医療従事者の場合は、過去に針刺し事故を起こした後エイズを発症して死亡した例があり、現在は針刺し事故の際のHIV予防薬の使用がガイドライン化されています。
また、クラミジアや淋病などの他の性感染症にかかっていると、HIVに感染する可能性が数倍高くなると言われています。
他の性感染症にかかり不安を抱えている方が、HIV予防薬を使用することも珍しくありません。
HIV予防薬の種類
HIV予防薬には、PEP療法・PrEP療法・On Demand PrEP療法の3種類があります。
それぞれ対象になる人や方法が異なりますので、順番にご説明します。
PEP療法
PEP(post exposure prophylaxis/曝露後予防)療法は、HIVに感染する可能性がある出来事の後、72時間(3日)以内に抗HIV薬の内服を開始し、その後30日間内服を続けるという予防方法です。
適応となるのは以下の人です。
- 性行為の後に、相手がHIV感染者であることが判明した
- セックス中にコンドームが外れた
- 知らない人や不特定多数の人と性行為をした
- 性被害(レイプ)にあった
- 医療従事者で針刺し事故にあった
- HIV感染者の血液が傷口や粘膜に触れた など
PEP療法はHIV感染リスクにさらされた後に行われる予防法のため、性行為後や針刺し事故後に内服します。
正しく服用すれば95%以上の確率でHIVへの感染を予防できます。
ただし、72時間以内に開始しなかったり、内服忘れがあったりすると効果が落ちます。
ただし、72時間を過ぎていても、また内服忘れがあってもやらないよりやった方が効果は期待できますので、諦めずに相談していただくことをおすすめ致します。
PEP療法・予防薬治療の流れ
①問診
医師による問診、診察により、適用かどうかを判断
②事前検査
HIVやB型肝炎の感染の有無、腎機能
③同意書
抗HIV薬の保険適用外による予防服用同意書
④処方
事前検査で問題ない場合に薬の処方を行います。
⑤内服終了時検査
HIV、梅毒、肝機能、腎機能の検査を行います。
⑥フォロー
3か月後に再検査を行います。
PrEP療法
PrEP(Pre-Exposure Prophylaxis/曝露前予防)療法は、性行為の前にあらかじめ抗HIV薬を毎日内服することでHIV感染のリスクを下げるという予防方法です。
PrEP療法は以下のようなHIV感染リスクが高い方に推奨されます。
- パートナーがHIV感染者
- 不特定多数との性行為をする予定がある
- コンドームなしで肛門性交(アナルセックス)をする予定がある
- 性風俗で働いている
- 過去6か月のうちに他の性感染症にかかった
PrEP療法は、少なくとも性行為の10日前から開始しておく必要が必要があります。
10日経過するまでは効果が得られないため、経過するまで性行為は避けましょう。
正しく服用すればHIV感染者と性行為をしても、95%以上の確率でHIVへの感染を予防できます。
PrEP療法・予防薬治療の流れ
①問診
医師による問診、診察により、適用かどうかを判断
②検査(希望者のみ)
HIVやB型肝炎の感染の有無、腎機能
③同意書
抗HIV薬の保険適用外による予防服用同意書
④処方
⑤フォロー
3か月毎に検査
On Demand PrEP療法
On Demand PrEP療法は、性行為の2〜24時間前に抗HIV薬を2錠内服し、その24時間と48時間後にも1錠ずつ内服することでHIVへの感染を予防する方法です。
PrEP療法と同様、以下のようなHIV感染リスクが高い方に推奨されます。
- パートナーがHIV感染者
- 不特定多数との性行為をする予定がある
- コンドームなしで肛門性交(アナルセックス)をする予定がある
PrEP療法とOn Demand PrEP療法は性行為の前にあらかじめ内服を開始するという点で共通していますが、その服薬開始時期や服薬期間に大きな違いがあります。
そしてPrEP療法は性別に関係なく適応となるのに対し、On Demand PrEP療法は「生物学的男性のみ」に推奨されております。
On Demand PrEP療法では、正しく服用すれば90%以上の確率でHIVへの感染を予防できます。
オンデマンドPrEP療法・予防薬治療の流れ
①問診
医師による問診、診察により、適用かどうかを判断
②検査(希望者のみ)
HIVやB型肝炎の感染の有無、腎機能
③同意書
抗HIV薬の保険適用外による予防服用同意書
④処方
⑤フォロー
3か月毎に検査
HIV予防薬のメリット
PEP療法とPrEP療法・On Demand PrEP療法では対象となる人が異なるため、メリットも少し違ってきます。
PEP療法のメリットは性行為中の事故でコンドームが正しく使用できなかった時や、レイプなどでコンドームが使用されずに性行為が行われた時、医療機関で針刺し事故が起こった時などに、事後でもHIVへの感染を高い確率で予防できるという点にあります。
対してPrEP療法・On Demand PrEP療法のメリットは、パートナーがHIV感染者であったり、性風俗で働いていたりなどのHIVへの感染リスクが高い人が、高い確率でHIVに感染することなく性行為を行えるという点です。
また、男性同士の性交渉は、HIVへの感染確率が高いという点で従来危険視される傾向にありましたが、HIV予防薬を使用することでその危険性をかなり下げることができます。
HIV予防薬の副作用
どんな薬にも副作用はつきもの。
HIV予防薬にも以下のような副作用が生じることがあります。
- 腎機能障害
- 吐き気やお腹の張りなどの消化器症状
- 不眠
- めまい
副作用については生じても軽微なことが多いです。
ご不安なことがあれば受診時にお気軽にご相談ください。
HIV予防薬の注意点
HIV予防薬には以下のような注意点があります。
1.正しく服使用しないと十分な効果が得られない
HIV予防薬は、正しく服用しなければ効果が得られません。
つまり、中途半端に内服したり、途中で使用を辞めたりすると、HIVへの予防効果が十分に得られなくなるというリスクがあります。
どんな薬にも言えますが、用法用量を守り正しく使用することが大切です。
2.使用できない人もいる
HIV予防薬は、以下に該当する方には原則使用できません。
- すでにHIVに感染している
- B型肝炎に罹患している
- 腎機能や肝機能が悪い
当院では使用可能かどうか、処方前に検査にて確認しております。
3.HIV予防薬を使用していてもコンドームは必要
「HIV予防薬を使用していればコンドームなしで性行為を行っても良い」と思われる方がいます。
コンドームなしで性行為を行うと、たとえHIVには感染しなくても他の性感染症にかかる危険性が数倍に跳ね上がります。
自衛のため、また感染を拡大しないためにも、HIV予防薬の内服中もコンドームの使用は続けましょう。
HIV予防療法の料金
- PEP(HIV 事後治療) 75,000円 / 30日分
- PrEP(事前治療) 19,000円 / 30日分 49,000円 / 90日分
- On Demand PrEP(都度HIV事前治療) 3,000円 / 1回分
HIVは予防できる
HIV予防薬について詳しくご紹介しました。
HIV感染症は感染してしまったら一生治療を受け続けなければならない重大な感染症で、エイズを発症すれば命に関わることになります。
HIV予防薬はそんな恐ろしいHIVの感染を、90~95%もの高い確率で予防できるとても効果の高い予防方法です。
HIVの予防は、何よりも時間との勝負。
HIVが体に定着してしまうよりも早く、HIV予防薬の服用を開始することが大切です。
もし「自分はHIVに感染するリスクが高いかもしれない」「感染して人と性行為をしたかもしれない」と思われている方は、出来るだけ早く専門の医療機関に相談することをおすすめします。

